世界の農法シリーズ#6「草原の危機を救う炎――阿蘇野焼きの1,000年」

世界の農法シリーズ

阿蘇外輪山一帯に広がる草原では、毎年早春に「野焼き(草原焼き)」と呼ばれる一斉火入れが行われます。千年以上続くこの営みは、枯草を燃やして新芽の発生と害虫駆除を促し、放牧牧草地と希少生物の楽園を守ります。野焼きを怠れば草原は数年で林に変わり、牛馬放牧・景観・水源涵養・生物多様性のすべてが失われます。阿蘇の野焼きは「牧畜経営」「里山文化」「環境保全」が一体化した循環モデルとして、FAO世界農業遺産にも登録されています。【公式】熊本県観光サイト もっと、もーっと!くまもっと。


1.シリーズ再開のごあいさつ

菌ちゃん農法→ニシン肥料→地熱温室→ザイ農法→アクアポニックスに続く第6回は、阿蘇の草原焼き(野焼き)。燃やすことで守る――日本の伝統的草地マネジメントに迫ります。

Point! 野焼きは2〜4月の間に約22,000 haで実施され、1,000年以上にわたり阿蘇の草原景観と800種超の草原植物を維持してきました。【公式】熊本県観光サイト もっと、もーっと!くまもっと。


2.阿蘇野焼きとは?

2-1 歴史と文化

  • 野焼き・採草・放牧の組み合わせは平安期(約1,000年前)から続くと記録。
  • 明治期には草原面積が約45,000 haあったが、野焼き減少で現在は半分以下に縮小。
  • 2013年、FAO世界農業遺産阿蘇の草原と阿蘇地域の持続的農業システム」に認定。

2-2 目的と機能

  1. 新草の再生:枯れ草層を燃やし地温を上げ、春の芽出しを促進。
  2. 害虫・病原の抑制:越冬虫や病菌を焼却し牛馬の放牧衛生を確保。
  3. 森林化防止:火を入れないと落葉樹が侵入し、数年で草原が消失。
  4. 景観・観光資源:真黒な焼け野原から一面の緑へ変わるダイナミックな季節景観が観光名物。

3.手順を追ってみよう

Stepやることコツ
1防火帯づくり(1月)幅2–5 mの草刈りラインで延焼を制御。
2気象判断(2–3月)前夜までの降雨量・風速を集落ごとに確認。
3着火風下から点火し、複数班で監視しながら炎を進める。
4炎止め火が防火帯に達したら熊手で残火を叩き消す。
5再巡回24 h以内に再燃チェック。

※ 高齢化で作業担い手が不足し、ボランティア約4,000人が支援


4.ここがスゴイ!野焼きのメリット

  • 畜産基盤の維持
    焼却後の若草は阿蘇赤牛など放牧牛の主要飼料。
  • 生物多様性ホットスポット
    阿蘇草原には約600種の植物が生育し、そのうち86種が絶滅危惧。野焼きが遷移抑制と多様なニッチを確保。
  • 水源涵養と炭素固定
    草原土壌は森林より多く水を貯え、焼却による炭の炭素固定効果も報告。
  • 野火・害虫リスク軽減
    事前に燃やすことで夏期の大規模山火事リスクを低減し、ムカデなど有毒虫の発生を抑制。

5.農業自衛隊が着目する「防災・有事対応力」

観点効能出典
飼料安定畜産草地を自前再生=物流途絶時のローカル飼料基盤阿蘇市観光協会
防災計画火入れが延焼物を減らし野火化を防止あそびごころ
水資源草原表土が豪雨時の雨水をスポンジのように吸収【公式】熊本県観光サイト もっと、もーっと!くまもっと。
観光経済焼き払い→芽吹きの景観が年間200万人の観光客を誘引阿蘇市観光協会

6.まとめ 〜「火を使い、命を守る」草原マネジメントの真髄〜

「炎が去り、緑が蘇り、命がつながる。」

阿蘇の草原焼きは、畜産・防災・生物多様性・文化を一挙に支える千年の知恵です。火入れという“破壊”が、次代の芽吹きを保証する——そのダイナミックな循環こそ、資源制約と気候危機が進む時代のヒントとなるでしょう。


参照文献・ウェブ資料

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