中森農産株式会社 代表取締役・中森剛志さんと対談させていただきました。
中森さんは、「一般社団法人国家ビジョン研究会(シンクタンク)」のメンバーとして、日本の食料安全保障の課題に深い危機感を抱き、米・麦・大豆といった主食作物の生産に力を注がれています。
その課題解決に向け、前例のないスケールで農業法人による子会社化を進め、全国各地に圃場拠点を設けることで、主食作物の安定的な生産体制の構築を実現されています。

とはいえ、今でこそ全国規模で展開される中森農産さんですが、創業当初は特に「農地の確保」に大変なご苦労があったそうです。農地を借りるには新規就農者として認定される必要がありますが、そのためには逆説的に“既に農地を持っている”必要があるという、制度上の矛盾とも言える壁が立ちはだかっていました。このような構造は、新規就農を志す人々にとって大きなハードルになっている現実を改めて感じさせられました。
その中で中森さんは、加須市の農家で1年半にわたる研修を経て、2016年にたった一人で10haの農地を借りて独立されました。そして翌2017年には中森農産株式会社を設立。そこからわずか6年で、300haという圧倒的な規模へと拡大を遂げています。
ここに至るまでの道のりは、想像を絶する困難の連続だったことと思います。しかし、それでも突き進まれたのは、「日本の食料安全保障を守る」という強い責任感と、圧倒的な覚悟があったからこそだと感じました。

また、農業界における構造的課題である「資本の流入の難しさ」にも真正面から向き合い、農業の大規模化・法人化を推進。若者が希望をもって参入できる持続可能な環境づくりにも取り組まれています。
特に印象的だったのは、安全管理に対する徹底した姿勢です。
農業は産業別の死亡事故率が高く、熱中症や重機事故といったリスクが常に隣り合わせです。中森農産さんでは、ASIAGAP認証を取得し、社員の安全だけでなく、働き方や労働環境にも配慮した仕組みを整備されています。

中でも、ヘルメットと反射ベストの着用を徹底している点は、農業界では非常に稀有な取り組みであり、安全管理の象徴とも言える姿勢です。これは「安全こそ最大の戦力」と位置づける自衛隊の考え方とも共通するものであり、農業自衛隊として大いに学ぶべき点だと強く感じました。
我々農業自衛隊も、有事を見据えた食料安全保障を掲げて活動しております。その理念において、中森農産さんの先進的な取り組みと深く通じ合うものがあり、今後もその実践から多くを学び、使命の実現に努めてまいります。
農業自衛隊としてこれから挑もうとしている道は、決して平坦ではないと覚悟しています。突き進むか、立ち止まるか、その選択の鍵を握るのは「強い責任感」と「揺るがぬ使命感」だと、中森さんの歩みを通じてあらためて感じました。
