世界の農法シリーズ#7「ワルワル農法」

世界の農法シリーズ

「霜も干ばつも怖くない!?」――水路と畝が生む“温室効果”で高原を緑へ変えるワルワル農法

ボリビア・ペルーの標高3,800 m級アルティプラーノ(チチカカ湖盆地)には、畝(高さ0.5–1 m)と水路(幅2–4 m)を交互に造成した巨大な格子状大地が残っています。これはワルワル(Quechua)/スカ・コリュス(Aymara)と呼ばれる先インカ期の高床畑システムで、排水・保温・灌漑・肥沃化を同時に達成し、現代でも復元試験で収量が3倍以上伸びたと報告されています。ウィキペディア


1.シリーズ再開のごあいさつ

本シリーズ第7回は、アンデス高地のワルワル農法。古来の土木技術が、寒暖差30 ℃の高原に“天然温室”をつくり出します。

Point! 湖畔に残るワルワル跡は総面積80,000 ha超と推定され、衛星写真でも確認できる“考古学的メガアグリ”です。


2.ワルワル農法とは?

2-1 誕生と歴史

  • 紀元前300年ごろ出現し、チュリアカ文化〜ティワナク文明期(紀元後600–1000年)に最盛期。
  • インカ支配後やスペイン植民地期の社会変動で放棄されたが、1970年代に考古学者C.エリクソンやA.コラタが生産試験を実施し復活。
  • 2000年代、ペルー・プーノ州やボリビア国営プロジェクトで復旧が進み、気候変動対策として再評価。

2-2 仕組みのキモ

  1. 高畝が作物根域を排水し、冷気沈降を阻止。
  2. 水路は昼に太陽熱で温まり、夜間に蒸発凝縮熱で畝を加温し霜害を緩和。
  3. 水路底に堆積する有機泥(レーニョ)を毎年畝に上げ、肥料循環。
  4. 水路で小魚や水鳥を飼育し副産物を得る多機能システム。

3.手順を追ってみよう

Stepやることコツ
1畝幅2–4 m、水路幅1.5–3 mで交互に掘る掘土は畝上に積上げ、比高50–100 cmを確保
2水路に導水湖水や雨水を引き込み水深0.3 m程度を維持
3畝面に作物播種キヌア・ジャガイモ・オカなど高地作物が適合
4収穫後に水路底泥を畝へ施肥有機物+リン酸が豊富
53〜5年周期で畝と水路位置を交替土壌疲労を防ぎ永続利用

4.ここがスゴイ!ワルワルのメリット

  • 収量300 %アップ
    1990年代のUVI試験でトウモロコシ・キヌアが露地比3〜4倍収量。
  • 霜害50 %低減
    夜間の畝面温度が周囲より2–3 ℃高く、-5 ℃でも無被害例。
  • 干ばつ・洪水両対応
    水路が貯水池+オーバーフロー排水路として機能し、水害時も畝が水没しにくい。
  • 労働集約⇔雇用創出
    掘削・泥上げに人手を要するが、地域雇用と伝統継承に貢献。
  • 景観・観光資源
    空撮で幾何学模様が映える“リビング遺跡”としてツアー化。

5.農業自衛隊が着目する「防災・有事対応力」

観点効能
気候変動2023年プーノ州大干ばつ時もワルワルが食糧難を回避
多機能水路養魚・灌漑・排水・保温を一本化=資材ゼロでリスク分散
低コスト復元手作業+地元資材で構築でき、外貨・燃料依存を回避

6.まとめ 〜「畝を掘れば水が守る」アンデス智慧の再生力〜

「水が熱を蓄え、熱が作物を守り、作物が人を養う。」

ワルワル農法は、排水・保温・肥沃化を土と水だけで実現するハイランド版パーマカルチャー。千年前の知恵を現代科学が裏付け、気候危機下の食料安全保障策として再評価が進んでいます。


参照文献・ウェブ資料

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